ついっ探偵 ウィスパーボイスアンドキャット 第にゃにゃ話 人生やり直せるペッパーランチ

生ぬるい空気を少しでも押し流そうと開けた窓から、猫の鳴き声が聞こえた。

Mr.twitter   どこかで猫が鳴いてる

猫の鳴き声は、まるで皺だらけの赤ん坊が泣いている声のようだ。いや、年老いているのは体で顔と精神が赤ん坊というべきか。

Mr.twitter   猫の鳴き声っておじいちゃんにも、赤ちゃんにも似てる ((((;゜Д゜)))

このイメージはどこから来たのだろう。どこかで見たのか。誰かに聞いたのか。何かで読んだのか。それともいま思いついたのか。わからない。

Mr.twitter   似たようなこと誰かが発言してた気がする(・ω・) デジャブ?

記憶とはなんだろう。その在りかに思いを馳せる。忘れることはかまわない。思い出すときに、間違えないように。記録はそのためにあり、記述はそのバイパスだ。

Mr.twitter   ボケたか?? Σ!(・ω・) なんでも書いとかないとダメだねー

記録のtool。もはやそれを手放すことはできない。近頃は家ではPCに、外出先では携帯電話に常に向かっている。しかしそれは、はたして思考そのままなのか。記録のための思考になっているのではないか。

Mr.twitter   発言しすぎかなぁ。でももう、ついったー中毒。キメェwww

ガシャーン!!


思考はガラスの割れる音で遮られた。男は窓を見た
しかし、窓は割れてなどいない。
(え?)

「嘘つき」
押入れが開いた。中にいた者は、
「……女子高生と、猫?な、何だお前ら?」

「『なぜ窓が割れる音が?』と思ったでしょう!!」

「思ってない!誰なんだよ」

「メンバー紹介!!ギター debu!!」

押入れの奥から、ギターを抱えた小太りの男が出てくると、窓ガラスをガシャーン!!と割って窓から飛び降りた。男は窓に駆け寄る。

「ええ!?」

「パーカッション debu!!」

小太りの男の落ちた場所を探す男を突き飛ばして、スティックを持った小太りの男が窓から入ってきた。ガシャーン!!と音が響き、部屋中にガラスが散らばり、倒れた男に降りそそいだ。

「いてぇ!」

「バイオリン 30人のdebu!!」

「うわっ!いったいどこから!!」

「あれ?debuたち、バイオリンは?」

「あ、忘れちゃった」

「なんだとー」

女子高生がパンチ。殴られた小太りの男が、ガシャーン!!と音をたてて砕け散る。他のdebuたちは嬉しそうに驚いた顔を見せると、互いに体をぶつけて、ガシャーン!!と次々に砕けた。そのたびにガラスが飛び散り、男はもはや血まみれだ。

「そしてあたしたちは、
ついっ探偵 ウィスパーボイス アンド キャット!
Twitterで不適切な発言なんて、絶対させないんだから!」

その時、男の部屋のドアが、ガシャーン!!と砕けて、牛のような顔をした年配の女が入ってきた。
と思うと勢いよく転んで、床のガラスの山に頭から突っ込んだ。血まみれだ。圧し掛かられる形になった男は悲鳴をあげる。

「うぎゃあ!!誰だこのオバサン!!」

「ガラスを割る音がうるさいザマス!」

「町内会のオバサンが抗議に来てしまいました(女子高生スマイル)」

「な…なんなんだよくそっ。痛ぇ」

「町内の平和を乱す者は、さっさと引っ越しザマス!!」

「待つのじゃ町内会の人!!」

「あなたはメガネ長老!!」

「わしに古くから伝わる言い伝えに拠れば(ガシャーン!!)」

「メガネ長老のメガネが、割れた!」

「ギャー!!わ、わしが血の涙を流すとき、それはすごく痛い!」

「こんなときは、テヅカオサムに相談ザマス」

「呼んだかい?」

「テヅカ先生!!」

「…い、いつのまにうちの引き出しに……」

「ドラなんとかってアレぼくがモデルだからね」

「さすがテヅカ先生。すごい独占欲じゃ」

「(プルルル)あ、もしもし。うん俺テヅカ。え?違います。うちは出前なんてしてません!バカ!」

「あ、よく見たら!このテヅカ先生、おかもちを!服も中華屋の服じゃない」

「ふっふっふ。気づかれてしまっては仕方がない。そう。俺はテヅカ先生ではなく…出前もちだ!!」

「わしチャンポンメン」

「こっち天心飯ザマス」

「へい毎度。と見せかけてオカモチの中には……ガラスだぁー!(ガシャーン)」

「ギャアー!!」

「さすがテヅカ先生!どんなときも読者を驚かせる罠を忘れないんですね!」

「……なんだよ…どうなってんだよ…」

「大変ザマス。この人血まみれザマス」

「医者を呼ぶのじゃ」

「ブラックなんとかってアレぼくがモデルだからね」

「じゃあみんなで、お医者さんを呼ぶ歌を歌いましょう」

「「「「ガーラースー なぜ割るの? ガラスの勝手でしょー」」」」

小太りの男たちが、ガラスを割っている音がする。どこか遠く。


ーーーー。


「…これで、彼の認識は壊れたわ」

女子高生は胸に抱えた猫に囁く。

「…誰も発言など聞いていない。現実だろうとtwitterだろうと。囁き声は、ただすれ違い続ける。ドライバーを突き刺した相手の、現実への認識をかき乱す<ウィスパーボイス>。それがあたしの能力。」

それはアカウントがbanされるよりも、さらに重い処分。あまりに発言の多すぎる者を、<ついっ探偵>は探し出し、<ウィスパーボイス>を染み入らせる。やがて小さく、かすれ、消えていく。

「…けれど、<ウィスパーボイス>って、あたしの能力ってほんとにほんとなのかしら?誰から命じられて<ついっ探偵>なんてやってるのかしら?」

男を置き去りにその場を去りながら、彼女は猫を胸に押し抱いた。猫は顔をしかめ、もがく。

「…あたしの認識なんて、どこまで信じられたなのか……」

猫が鳴く。老人のような、赤子のような声で。
彼女は走り出した。わけもわからずに。怯えながら振り返り。猫を抱えたまま。

Mr.twitter   ガラスが割れる ちがちがちが

Mr.twitter   おまえだれなんだテヅカさんは

Mr.twitter   このなかにあたまをこわしたやつがいます

Mr.twitter   ふさがらない きこえてくるよ 

Mr.twitter   ガシャーン!!

Mr.twitter   やめてよ


男のfollowerは次々と減っていく。home画面では男の発言などなかったように、誰かが誰かに呟いている。
最後のfollowerが、男に話しかけた。

cat        What are you doing real?

Mr.twitter   ガシャーン!!



このイラストからイケナイほうイケナイほうへ膨らませて書きました。