誰かのために生きること。それよりもっと恥ずかしいこと。

いつものごとく、特に理由も無く死にたい。あらヤダ恥ずかしい。生きてるなんて。
というわけで、いきつけのビルディングの屋上へ。どこにいても死ぬことばかり考えているのだが、そこはそれ。雰囲気づくりってやつである。
屋上を囲う柵を乗り越える。向こう側では、急に風を強く感じた。こちらにいるのに向こう側。越えられなかった柵の向こう側。なんで越えられなかったのか。なんで今日は越えられたのか。よく分からないが、今日は死ぬことができそうだった。気分を出して、恐る恐る地上を覗き込むそぶりをしてみる。
目があった。
女の子がぶらさがっていた。屋上の縁に手をかけて。
「あなたを見てました。ずっと。毎日ここにぶらさがって。死ぬんですか?死にたいですか?あなた死にたそうでした。死にたさまるだしでした。そんな見え見えで死ぬの、やめてください。トラウマになります。一勝忘れられなくなります。そしたら生きちゃうじゃないですか。あたしの中で生きちゃうじゃないですか。もっと分かりにくく死んでください。普通に生きて、誰も責任を感じないようなやり方で、うっかり死んでください。死ぬなら。死にたいなら。だってあなたが好きだから」
目をそらす。
柵をよじ登りこちら側へ戻った。平静を装いつつ、その場から逃げ出した。
(なんなんだ…あいつ――)


あれから10年。時々あの女の子のことを思い出して、心臓が高鳴るんだ。