萌理賞非参加作品「膝の上で抱きかかえながらじゃ、上手に字は書けません」

姉はからかい好きで、かつ世話好きな人だった。
「あんた字下手ねぇ。お姉ちゃんが代わりに書いたげよっか。嘘よ、嘘。下手でも丁寧に、自分の手で書かなくちゃ。あ、そこ曲がってる。もぉほら、お姉ちゃんがおっぱいで押さえててあげる。嘘よ、嘘」


妹は物静かで、博識だった。
「……お兄様、それは常用漢字です。公用書面は旧字を用い、ルビを振るのが正しいです。このように……お兄様、手を重ねてでは字が書きづらいのでペンを離してください」


幼馴染は明るく、行動的な人だった。
「え?入学書類破れちゃった?じゃ、もっかいもらいに行こう!さあさあ行く前から諦めないっ!やってみなくちゃ分からないっ!」


7枚目の失敗。扇風機の風で書類が煽られて、字がはみでてしまった。
「もうやだー。うまくできないよ。せ、扇風機消す?でも暑いー。もう無理ー」
文句言いながら膝の上から降りない彼女。
姉も妹も幼馴染でもない君と、ゆっくり婚姻届を書く。2人で。