単純。

僕は核心に触れないように髪を切る。
ねじる。縛る。逆立てる。それにぴったりの長さに切る。
僕の髪は細くて、だいたいはまっすぐなのだけどところどころ変な猫っ毛だから、素早くセットするためにボリュームを減らす。もちろん減らしすぎてもいけない。まとめづらい横のはえぎわは短く。うなじは垂れない程度に伸ばす。女の子はヤシの木みてーって言うけれど、けっこうお気にいりのスタイル。
このスタイルを確立したのは14歳で、それまではポニーテイルにしていた。でもニキビ面には似合わないんだよね。
限られているとしても、その中でこだわって好きになれるスタイルを見つけなくちゃいけない。手放しに夢中になれたりしない僕は、そのことを頭から伸びる絶棒から学んだ。


バナナを思い浮かべる。ずっと置いておく。バナナの皮のところどころが黒くなる。皮全体の黄色は、赤みがかっていく。その黒と赤みがかった黄色が、だんだん溶け合っていく感じ。完全に、じゃなくてまだらなんだけど、お互いの色がもっと近い感じ。分かるかな?
絶棒はそんな色をしている。
僕の細い髪の毛を光に透かした色にも似ている。でも光は通さない。
ぎゅっとねじって結んだ髪の毛と同じくらいの太さ。後頭部からまっすぐに伸びる絶棒は、硬いけど押すとへこむんだ。


9歳でお風呂に1人で入れるのは、普通なんだろうか。山で何かうまく名前がつけられない遊びをして、汗だくだったので夕方からお風呂に入った。頭を洗うとき目をつぶるのが怖かったから、早く早くと指をふりながら頭もふって洗った。そのとき気づいたんだ。頭の後ろに、何か膨らんだ感触がある。こぶだろうと思った。痛くもなかったし、そのときは放っておいた。
でも、何日たっても頭の後ろのふくらみはなくならない。しかも、なんだかだんだん大きくなってきてるみたいだ。


夜。布団で。ふくらみをなでている。
ささいだけどイライラしたこと。
調子にのって恥ずかしかったこと。
子供っぽいわがまま。
大人ぶったかっこつけ。
その日にあったことを思い出して、それはだんだん、その時とは別な気持ちに変わっていった。その気持ちを、なんて言えばいいのか分からなかった。
漢字の書き取りで、僕は知る。
絶望。
うん。多分。そんな気分だ。しっくりいくんだ。
頭の後ろのふくらみは、育って尖り始めてきた。僕はそれを絶棒と名づけた。


僕は毎晩、絶棒に話しかける。
「やあ。どうにも僕は、僕のことも誰のことも分かんないんだよ。困ってるのかな。困ってるのかもよく分からないや」
絶棒は何も応えないけど、少し震えるような気がした。


外に出掛けるのに、ぶらぶら絶棒をぶらさげているわけにはいかない。
絶棒を隠した髪形で、スタイルで。
さあ、明日は何を話しかけようか?