全自動卓にビールを

今日は元玄人の旦那と新妻の私、クラスメートのジロちゃんともっさんで、最近深夜の通販で買った全自動卓を囲んでいます。


国士無双をテンパイしました。
「あー。きしめんってのは、うどんを早くゆでるために平べったくしたんだってねえ」
「何?テンパイしたの?」
なんてことを言うのです、我が夫!「高い手入っちゃったから、さりげない豆知識の話でも始めてごまかし」作戦が台無しじゃないかっ!
「いやいや、そんなことないですよ〜。そのせっかちさ、さては貴様名古屋人かっ」
「君がそんな唐突な話するときは、何かごまかすときしかないでしょう」
「まあ、だいたいそうよねー」
ちっ。見抜かれていたか。上家のジロちゃんまで。
「ほら気づかれた!黙っていればわからなかったものをっ」
「いや、わかるわよ」
「っていうか、自分で言わなきゃ白を切り通せたのに」
「ふっ。甘いねっ。自分から言い出すことでブラフをかける、という高度な戦略なのですよこれは」
「そんなんじゃ騙されません」
「ああ、悲しい。妻を信じない、その思いやりのなさは、やはりあなたは夫の皮をかぶった名古屋人ですねっ!正体現しやがれっ」
「君の中の名古屋人はそんなネガティブなイメージなの?」
「確かに名古屋人って、独自性を出そうとし過ぎて、悪い面悪い面ばっか出してはいるけど」
などと、私達が火花散るかけひきを繰り広げていると、むーむー言いながら、牌を並べ替えていた下家のもっさんが、ぎろりと目をすごませて、
「麻雀は静かにしろい」
と呟きます。
やや。怒られてしまいました。それも玄人風に。
おいしいなぁ、もっさん。
そして、うなりながらも手を高く掲げて、牌を切ります。それはもう、ぴしっと音もせんばかりに!一人でかっこつけるのは、ずるいぞぅ。
「うひゃー。ここでピン六切るか」
「荒れてるねぇ。ピンズ出まくりだよね。怖いなぁ」
などという、旦那とジロちゃんは、マンズとソーズの染め手でしょうに。そんな腑抜けた芝居ではごまかされません。私の国士に慄くがいいっ。ペー頭のイーピン待ちだぞっ。
と、私がこっそりと勝ち鬨をあげているうちに旦那が、打中。
すると、もっさんが
「ポン」
続いて、ぐるりと回ってジロちゃんの捨てた發に、もっさんがまた
「ポン」
大三元ですかっ!
怖いよう。白いのは怖いよう。と、頭の中でホーキング博士ブラックホール宇宙論を呟いているうちに、私の手順。
「うりゃ!」
…白です。
しかし、そんなものカリスマ女子高生主婦には怖くありません!白を引いたら北を捨てればいいのよ、とアントワネットさんも言っています!
打っ!北!
「ポン」
もっさんは字一色みたいです。
場の緊迫感が高まってきました。
気がつけば、みんなしゃべるのをやめて、互いの打牌に集中しています。
うぅ、つまらない。もっとわいわいしようよぅ。誰ですか。「負けた人は槇原敬之風に中学生の時の失恋を語る」なんて、言い出した人は!
はい。私です。
と負けるのが嫌なので、一人でぼけて一人でつっこんでいると、変なものをみてしまいました。
旦那の頭からちょんまげが生えてます。
真ん中からきれいにまるくはげている旦那の頭頂部。ナルコレプシーの発作でうとうとしてうつむきぎみ、けれど絶壁頭なので対面のこちらからはよく見えない頭の平らなところから、そろそろとちょんまげが伸びてきています。
なんで?もしやっ、尾張は名古屋の民を馬鹿にした旦那に、信長公の霊が降りてきているとか?
それとも旦那の頭に偶然ホワイトホールが開いて、そこに本能寺でブラックホールに吸い込まれた信長公が、ブラックホールの向こう側の虚数宇宙を統一して、こっちの宇宙に帰ってこようとしているとか?
ううう、気になって麻雀どころじゃないよっ!
「ほら、あんたの番よ」
と、ジロちゃん。私の番ですか。と牌を引くと、9ピンです。こっちじゃないんだよなぁと捨てようとすると、旦那がついに眠ってしまったのか、卓に倒れこんできました。
ごちーん!私の手と旦那の頭がぶつかりました。
「こらこらっ。寝るなー」
「あ、ごめんごめん」
やれやれ。ありゃ、ちょんまげがありません。それに私の切った牌も。あ、今ぶつかったとき、机の下に落ちたのか。
拾って、今度こそはと勢いよく切ります。ばちーん!
「あ、ローン」
「え?え?」
あれ?なぜ私の捨て牌が白に!
まだ寝ぼけている旦那の頭に9ピンが張り付いているではないか!
「これ!私の捨て牌こっち!」
「おいおい、そんなんじゃごまかされねえぜ」
変なポーズの手を顔の前で掲げて、もっさんが言います。
「いかさまは通じねえぜ!白待ちの字一色大三元でW役満。さあさあ耳をそろえて払いやがれっ」
「いやぁ、いかさまはよくないよね」
と、目を覚ましてへらへら笑いながら夫。
さては、この男いんちきしてやがったな!
白を頭の上に隠して、そのうちすりかえるつもりだったのですねっ。これだから本当の玄人(元)は油断ならねえ!
「不正です!不正が行われています!動議を要求しますっ!」
「却下」
声をそろえて、三人。
くそう。卓にふぎゅーと突っ伏すと、さっき切った白からちょんまげが出てこようとしています。
ああ、この世には神はいませんか?白の牌から出てくる、ちょんまげはいるってのに。なんてこったい!
「くそー!もう半荘だーっ!飲んでやるー!」
「おっ飲もう飲もう」
旦那達は楽しそうにビールを取りに行きました。
私は荒れている振りをしつつ部屋に残ると、ちょんまげの牌を入れて卓に牌を流し込みます。じゃらじゃらとかき混ぜられた後、牌が自動で揃えられてきました。
きれいに揃えられた牌の中に、ひとつだけ少し浮いた牌が。
あのちょんまげの、白です。
ふっふっふ、これでいつでも白の位置は分かるというもの。こいつを利用して、巻き返してやるっ。
世界でひとつだけの恥ずかしい花になんてなってたまるかっ!私はセーラー服とエプロンに身を包んだ玄人さっ!てやんでぃ!