当時のインタビューより抜粋。

―えーと、つまり、どういうことなんです。


「振込みだよ。奴は振込みをしなくちゃならなかった。その日のうちに。それだけさ。一連の笑えないコント、必死さとくだらなさが同時にあって、結局笑えもしないコントみたいになっちまった事件の核は。振込み。だいたいみんなするだろう?コンビニとか郵便局とか、その…銀行なんかでさ」


―あ、はい。しますね。


「するさ。誰もが。そして、誰もがするからこそ、振込みは、勢い便利になる。大抵の振込みは、コンビニで24時間いつでもできるようになった。振込み!振込み!振込み!振込みが人間を支配している、ってか(笑)それほど、奴にとって重要な振込みだった」


―そういった振込みに振り回される現代人への……、
「おいおい。俺よりうまいこと言っちゃったよ(爆笑)」


―(笑)いや、そういうつもりじゃなかったんですが
「どんどん言って。楽だから(笑)楽したいんだよ俺。振込みでもね」


―あ、そこに戻るんですね。そう、そんな楽を求める人間の性といったものの戯画ということで、いいんですかね。
「正解。そうでもあるし、また楽ばかりしていては困ったことになるんじゃないか、という未来へのメッセージも含んでる。」


―ははぁ。
「奴が振り込みしなくちゃならなかったのは、銀行の、しかも窓口でないと、振り込めないものだったんだな。そのことに気づいたのは、奴が間抜け面して郵便局で並んでた午後四時。つまり、どういうことになる?」


―三時に銀行の窓口は閉まる。
「いいねー(笑)いいよ、君。そう、すでに窓口は閉まっている。しかし、奴はそのことをしらない。空いている銀行を探し続けるんだ。歩いて。さまよって。同じような世界が続くわけがないって、世界の果てを目指してね」


ロードムービーですね。
「ロードなんてもんじゃないよ。ムービーですらない。そういうものさ」


―はあ。深いですねどうも。だんだんわからなくなってきました。わからなくなってきましたっ!同時に盛り上がってきました!
「君怖いな。怖くなってきました(笑)まぁ、旅路を経て、奴はまだ空いている銀行を見つけるんだ。しかし、それでも受難は途切れることはない。奴は銀行の口座を持っていなかった。それで振り込むことができないんだ」


―あれ?口座なくても、現金で振り込めるような…?
「現金がダメな銀行だったんだよ。都合上ね。そういうことに」


―ああ。都合上。
「そこはもういいから。で、奴は口座を作ろうとする。でも身分証明を持っていない。自分が自分であることを証明できないんだ。奴は、叫ぶ。自分すらいない世界の中心で。悲鳴のように叫ぶんだ」


―あの、某映画のパクリですよね?
「(無視して)やっと見つけた銀行もいつまでも開いているわけじゃない。時間が迫っている。叫んで、叫んで、のどが擦り切れるほど叫んで、やがて叫びは届く。口座を持っている男がかけつける」


―お、振込みできますね。
「ああ。振込みはできる。しかし、奴はもう失っている。この世で正しく生きていくこと。その態度を。誰かにすがっている、みじめな姿が、まるで悲劇みたいなんだ。バカみたいな悲劇。はは。みじめだな。クソ野郎。ぐふ。死ね。いや、生きてろ。生きてるのが死ぬより悲惨だよ。ひひ」


―ははぁ。で、結局さっぱり分からないんだが、あんた何の話してんの?
「え?」


―ていうか、あんた誰?