顕現の踊り子

あー、行動に引きずられてしまう、っての。町田康も書いてんな。
心の中で怒鳴りまくってるが、ヘタレのふりをしてへらへらしていると、へらへらが止まらなくなって間抜けをさらす。ってな。


んで後から、
俺は何をしておるのだ。違う。こんなんじゃねえ。このようなぐだらぐだらとふざけた顔でアホみたく踊っておるように見えるやもしらんが、そうではないのだ。私は、これこれこのような高尚なる信念に基づいて、斯様にしておるのであって、それがほんのくだらぬ事情でアホとしか思えぬような形で顕現してしまって……。


と、かかる事情を斯様に説明したならば、さっきから俺の踊りに腰を抜かして見ているマダムも、通報だ通報しろーっと叫ぶ下がり眉で茶髪のうすらバカ。バカっ!やめろっ!ほんとに来ちゃったらどうすんだ。もし時ならぬ声に駆けつけた警官が、国家をかさにきて己の卑猥なるサディズムを満たす変態で、尋問の際に、きんぴら大根のあのひょろとした、おそらくきんぴらと呼ばれる部分を速やかに発見・購入し、甘くぐつぐつしたしょうゆで煮て、きんぴら大根を食さねばならぬ、という私の目的を阻害するのは間違いないのであって、その上、このような茶番にはつきあっておれぬよ。と取調べ室を出ようとする私に、巧妙かつ悪辣かつ卑劣なる手口で、いわれのなき罪状について、「お前がやったんだろ」。一刻も早くこの場を離れたく、上の空の私が「おあ」などと適当な声を発すると、自白をとった!とちんけな餓鬼のごとく喜び勇んで逮捕。私はきんぴらを食うこともままならぬまま、サディズム仲間の看守に執拗にいびられながら一生を獄で過ごすことにもなりかねぬ。いかん。それは困る。と、邪魔な下がり眉を殴り、昏倒させようと考えて、手ごろな大きさの石を探す。
上体がかがんで、手が地面に沿って、うろうろと空を舞う様。おお、これはきんぴら様になってるのではないか?この手つき、偶然そのようになったおうでいて、それがきんぴら観音のお導き。きんぴら様に奉納する、きんぴら祭りの舞はこんな感じじゃねえ?なかった?いやコレだよ。コレ踊ってりゃ、「ああ、きんぴら様に舞を捧げているこの高貴な、キャ。それによく見ると二枚目。あらイヤだあたしったら。とにかくこのお方に急いできんぴら持ってきてあげなくちゃ」となるのは相違なく、警官は怖いが、きんぴら食いたい。てやんでえっ!警官が怖くてきんぴら食えるかってんだ。と昔東京の知人宅に泊まったとき宿った江戸っ子の血が騒ぐ。うひゃ。きんぴらさま〜まだですか〜。と踊ると、マダムやら下がり眉が、おかしーわこの人っこっちくんな変態っとまた騒ぐので、やっぱり殴って黙らせておこうと踊りながら、きんぴら様への祈り、きんぴら大根への慕いを失わぬよう、にじりにじりにじり。俺、まるできんぴら様が宿ったかのよう。