雨でもなく、歌も歌わず、彷徨って。

右に曲がればよかったんだろうね。あの時。


空気がむっと熱をためていて、まだ夏ってわけでもないのに、日陰を探して、それを伝って歩いていたんだ。
それで気づかなかった。あそこで曲がるべきだった。じゃなきゃたどり着けないんだ。道はまっすぐなばかりじゃなくて、ゆるやかに行く先を見失う。そういうものみたいだから。


広い道に出よう。少しでも分かりやすいように。
そうして、粘った空気をぐいぐいかきわければ、もう前に進んでいるばかりで、はっとどこまで歩いたのか分からなくなる。


そんな風に頭を朦朧とさせる暑さからまた路地の日陰に逃げ込む。
たくさんの布団が並んで干されている家、小さなデザイン事務所の看板、誰もいない生肉だけがケースで腐っている商店。
いろんなものを見ていると、今歩いている道のことよりも、昔歩いた道の、その記憶を思い出して、三叉路でついに立ち止まる。


はー。


それでも歩くことだけはやめられない。
引き返す気はないし。
曲がれなかった右の進めなかった道を想像しながら、今度こそ、右に曲がる。全然違う右に。