ナチュラルボーンサイクリングクラッシャー

走りたい。誰より速く。自転車と。
僕は、改造する。DUALDRIVE。ディファレンシャルユニット。ベベルギア/シャフト。フロントパワートレイン。理科室を借りてでヶ月の作業の後、僕の自転車は完成する。


葵橋を渡り、寺町を抜ける。御所の角を三条へ抜ける角で気づいた。僕の自転車は直角を曲がるのが苦手だ。それでもできないってほどじゃない。滑らかに直角を折れることに慣れていく。
けれど、習慣は打ち破られる。


まるでそのために生まれてきたような手つきで、走る自転車を撫でるだけで、彼女は解体した。部品がほつれて散らばった。
表情を作り損ねたような半眼と目が遭う。
「踊るから許してね」
ゆらゆらと揺れた後、去る。心は奪われて空いた場所に、鈍い光を返すギアがばっちり嵌った。


なんでそうなのかなんて、どうでもいい。
どうしようもないことがあって、そんな理由は全部どうでもいいことなんだ。
彼女はすれ違う自転車を解体し続け、僕はビジョンを見る。
速く走ることと直角が苦手なこと。それとは別のビジョン。
僕の自転車は改造される。
彼女が触れられないほど速く速く走れますように。
解体する手が空を滑り、その手を握って連れ去って、僕は走る。走る。走る。
腕がちぎれるまで。


なんて綺麗なビジョンなんだろう。
それを思うと僕のギアは甘酸っぱい香りを放ち、回転する。




参考:
dualdrive(全輪駆動自転車設計)
国土地理院 地形図閲覧システム 2万5千分1地形図名:京都東北部(南西)
また、「京都賞」「萌理賞」両賞非応募作品です。だってレギュレーションとかよくわかんない。