これからの「暴力」の話をしよう

ジェンダーの! ジェンダーによる! ジェンダーのための? ジェンダー!!!!
以上をもって挨拶と代えさせていただきます。申し遅れました。アイアムア死体性病です。

エ~今日はね、ジェンダーの話ということで、どういったことからお話しようかなーなんて思ってるわけですけども、どうですか?ジェンダーしてますか?なんてね。ジェンダ~イズ~ワ~イルド、なんつってね。あらありがとうございますお客さんがね暖かくてもう、そちらのジェンダーの方なんかももうね、大変ですよね。ジェンダーさん、ジェンダーさん、ひとつ飛ばしてジェンダーさん。って飛ばしたらいけませんね。ジェンダーはね。こらこらいい加減にしなさいよ。ジェンダージェンダーうるじぇえんだー!とか怒られないうちにね、早速ですが本題の方に入らせていただこうかなと思っております。

「この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君」

令和三百六十五年、高輪ゲートウェイから田町オプトアウトにかけての一帯は祝祭の喧騒に包まれていた。○○○(任意の文字列)○○○(任意の文字列)、○○○(任意の文字列)○○○(任意の文字列)、○○○(任意の文字列)○○○(任意の文字列)、高・収・入の祝詞を大音響で響かせるトラックをベーシックインカム派大僧正がその身ひとつで横転させる言祝ぎの儀は既に九十四回目。煩悩の数と同じ一百八回目のクライマックスへと向けて、衆生の熱は高まらんばかりであった。
生にまつわる一切の苦を浄するゆるキャラ「南無ずっきゅん」のARスタンプの応酬が夜の闇に薄く抗い、誰もが等しくその光に照射された。そこには平等しかなかった。一切が平等で、一切が苦しく、完璧にポリティカルなコレクトネスだった。齟齬がない美しさだけで、もうそれだけでよかった。

「この世には差のつかないことなど何もないのだよ、関口くん」

こんこん。こぶしが、ちいさすぎて、ノックのおと、きこえなかったのかな?こんこん。だれかいませんか?こんこん。わたしです。きこえますか?そっちはどうですか?へんなこと、ありませんか?こんこん。だれかいませんか?こんこん。わたしはここです。とどいていませんか?へんじを、してください。わたしのことなんか、どうでもいいですか?わたしの、てが、ちいさすぎますか?こんこん。ぱぶりっくいめーじさんですよね。こんこん。あけてください。こんこん。いれてください。こんこん。きこえませんか?わたしは、ここに、います。わたしです。フェミニズムです。こんこん。こんこん。こんこん。
繰り返される度早くなり、その代わり祈る時間が増えた。いつしかその拳は、音を置き去りにした。こうして怪物が誕生した。後にこう呼ばれることになる。百式フェミニズム観音。

「この世には叶わないことなど何もないのだよ、関口君」

鮎喰響が、割った。そうなれたかも知れない、ありえた世界の全てを、その、拳で、割った。
暴力であった。まぎれもなく正当な、現代まで受け継がれてきた暴力のひとつの到達の、暴力だった。
「素晴らしい。あなたの暴力はまぎれもなく正義そのものです」
誰かが言った。
「そんなこと知らない。わたしはわたしのやりたいようにやってるだけ」
「それこそが正義になるのです。結果として、あとから、いかようにでも正義になるのです」
「ふぅん」
いつでも殺せるという姿勢は崩さぬまま、鮎喰響は本を取り出し、開いた。まるで気のない風に、問うた。
「あなたは時速100kmのスピードで走っている車を運転しているが、ブレーキが壊れていることに気付きました。前方には5人の人がいて、このまま直進すれば間違いなく5人とも亡くなります。横道にそれれば1人の労働者を巻き添えにするだけですむ。あなたならどうしますか?」
「御心のままに
誰かが、どこにもいない誰かが言った。
「望むがままになすことが、いかようにも正しい結果となりましょう。ただそのように思われるがゆえに。光あれと思う故に光あれかし」



「ふぅん」
まったく同じトーンで鮎喰響は鼻を鳴らし、こう言った。
「じゃあ、書いてみたらそれを?小説に」
そうして誰かを殴った。生きているものはもう、誰も立っていなかった。

「この世には理不尽なことなど何もないのだよ、関口君」