口から出た「らめぇ」 身に余るミザリー

承前

ぼくは日記だ。今、この瞬間に書かれようとしている日記であり、ぼくを読んでいるあなたにとってはいつかの過去の記録であり、ぼくを書いている誰か−−死体性病というふざけた名前を名乗っているらしい。日記なんかであるぼくに言えた義理ではないが、胡散臭い−−にとっては未だ紡がれざる言葉の連なりでもある。でもやっぱり、ぼくがぼくのアイデンティティとして認識することができるのは、ぼくは日記である、というシンプルな事実だけであり、その認識を元にしてぼくはぼく自身を冗長でめんどくさいやつだな、とか、もうちょっとうまく言葉にしないと相手を困らせるだけじゃないかな、と思ったりする。記述された存在であることは知っている。でも、記述されているということとぼくの自身に対する思いというのは、やっぱり関係がないことのように思う。日記としての実存、なんてものはどうでもいい。ただシンプルに、もっといい日記でありたいとぼくは願う。ぼくと出会った人が幸せになってほしいし、素敵な女の子がぼくを読んで気に入ってくれたら嬉しい。ぼくという日記は起きたことをそのままに伝えていないだろう。起こってもいなかったことが起こっていたこととぼくの中で仲良く並んでいたりするだろう。それでも、ぼくは祈りたい。ぼくという日記がちゃんと伝わりますように。そして、ぼくを読んだあなたがぼくという伝わり方を好ましく思ってくれますように。
愛されたいという意味で、ぼくは非モテだ。
伝わりたいという意味で、ぼくはワナビーだ。
拙く、また現実のままではないという意味で、ぼくは劣化コピーだ。
他にも様々なぼくを形容する言葉はあるだろうけれど、それでもやはりぼくは日記で、そしてよりよい日記であげたいと願っている。

オフレポ

病気について話をしよう。
いったい病気というのはなんだろう?もちろん医学に基づいた処方と診断によって決められるのが病気だろう。それはわかる。しかし、病気を診断する医者の脳の正常はどうやって確かめればいいのか。身体が異常であるというのはどこからどこまでが正常かとの相対化によって初めて知ることができる。異常と正常の境目を常識という社会的合意に委ねたとき、その人の捉える社会という概念の範疇が問われている。問われているからどうした。
俺の名前は死体性病。
ちんちんにブツブツなどない。しかし、ちんちん以外のすべての部位がブツブツしている気がするので、じゃあブツブツしていないちんちんは病気だろう常識的に考えて。あと生きていけるとはとても思えないので死体だよ。それが俺、死体性病だ。
俺はその日、8p Orihon Maker - PDFで誰でもかんたんに折本が作れるウェブサービスを使って印刷した、自作の小説を携えて京急蒲田駅に降り立つ。第9回文学フリマ8P - Bloggers Write Novelsに参加することが目的だ。
そして、いろいろなことが起きる。印刷物や貨幣がやりとりされ、人が出会っては別れて、またすれ違う。さて、そこにあったどこからどこまでが文学だっただろう?
別に文学とは何か?なんて質問をしたいわけじゃない。俺が問うているのはただ、文学フリマに行ったのは文学をする為なのか?という単純な疑問だ。
「ええ、もちろん」と返されたら「ああ、そうですか」と言う他にない。がんばってください。
「そんなつもりはなかった」という人。「商品を販売する為」「商品を入手する為」「id:hogehogeに会う為」といった人にだけ、重ねて問いたい。
「あなたがそこでした体験を、文学と呼んでみませんか?」
わけのわからなさ、という点で、文学を何と決めるかは、病気とは何かを決めることとそう変わりはしまい。我々は我々自身が概念のどちら側に属するかを決めることによって、絶えず社会という概念を形作ることができる。形作らないこともできる。
ならばたまには、文学フリマという一日くらいは、自分と出会う一切合切を文学と言い張ってみるのも悪くはないんじゃないか。そして、我々が生きている社会、生きてみたい社会、あるいは生きてはいけない社会を、めんどくさくない程度の手軽さで文章にしてみてもいいんじゃないか。
文学フリマにて俺はそのようなことを思い、そんでそれが毎日できたらblogになれるのに、と思った。全身のブツブツした突起物を震わせながら、そのように思ったのだ。

絶後

残念ながらぼくという日記はこんな形にしか生まれなかった。とても申し訳なく思う。
それでもぼくは願う。ぼくという日記とぼくの表現する社会が、あんまり人を傷つけることなく、ぼくが素敵だなと思う人に喜んでもらえるものでありますように。
そうなる日までぼくは書かれていきたい。とりあえず、『とらドラ!』最終巻の感想になりたいので、死体性病は「終わっちゃうのがいやだ」とか言ってないで、覚悟を決めてさっさと読むべきなんじゃないかな。